「グリーンボンドガイドライン2017年版」の公表

高崎経済大学 経済学部
教授 水口 剛
 
 2017年3月28日、環境省が「グリーンボンドガイドライン2017年版」を公表した。グリーンボンドとは、企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券等(証券化商品等を含む。以下単に「債券」と記す)であり、具体的には、①調達資金の使途がグリーンプロジェクトに限定され、②調達資金が確実に追跡管理され、③それらについて発行後のレポーティングを通じ透明性が確保された債券を意味する。環境省のガイドラインはこのグリーンボンドに求められる要素を整理したものである。その特徴をいくつか紹介してみたい。

<なぜ環境省なのか>
 グリーンボンドは債券であるから金融庁の管轄なのではないか。なぜ環境省がガイドラインを発行するのか、という疑問を持たれるかもしれない。しかし、グリーンボンドとは、資金使途を約束して資金を調達するときに「グリーンボンド」というラベルを付けて債券を発行するだけで、債券としての性質は、グリーンボンドでない通常の債券と変わらない。つまり法的な意味では、新たな債券のカテゴリーを生み出しているわけではない。
 グリーンボンドも法的には通常の債券と同様であり、金融商品の一種であるという意味では、当然、金融庁の管轄だが、グリーンボンドというラベルの本質は、資金使途の「グリーン性」の部分にある。それゆえ環境省がガイドラインを出したのである。

<ガイドラインとはどういう意味か>
 このガイドラインに法的拘束力はない。では、ガイドラインに何の意味があるのか。
 通常の債券発行のルールを守っていれば、発行者がグリーンボンドという名前を付けて債券を発行することは、本質的には自由のはずである。だがその債券が市場でグリーンボンドとして受け入れられるかどうかはわからない。グリーンボンドと認めるかどうかは、最終的には投資家の判断である。このとき、どういう債券にグリーンボンドという名前を付けて発行するか、どういう債券ならグリーンボンドとして購入するか、という判断の拠り所があれば、発行者、投資家双方にとって便利である。それがガイドラインの役割である。実際に発行者と投資家がガイドラインを参照して行動するようになれば、それが事実上の標準として定着することになるだろう。

<グリーンボンド原則との関係は>
 グリーンボンドは国際的に発行が拡大している。そして国際的なガイドラインとしては、2014年1月に発行された「グリーンボンド原則(Green Bond Principles)」があり、ICMAが事務局を務めている。国際的なグリーンボンド原則があるのに、なぜ日本版のガイドラインが必要なのか、というのはもっともな疑問である。
 この点について、日本のガイドラインは日本の事情に配慮して、国際的なグリーンボンド原則よりも基準を下げているのではないか、と疑われるかもしれないが、誤解である。日本版のガイドラインは、グリーンボンド原則の基準を緩めたものにはしていない。

 グリーンボンドという市場が長期的に発展する鍵は、「グリーンボンド」というラベルの信頼性にある。グリーンボンドが実はそれほどグリーンではない、と思われ、グリーンボンドの信頼性が損なわれたら、グリーンボンドと称する意味がなくなってしまう。また、日本のガイドラインが国際的なグリーンボンド原則より緩いと思われたら、日本のグリーンボンドが国際的に信頼されなくなってしまう。したがって、国際的なグリーンボンド原則との整合性は不可欠であり、日本のグリーンボンドの要件がそれより緩やかなものになってはならない。環境省のガイドラインはこの点を明確にした。
 
 具体的には、このガイドラインは「国際的に広く認知されているグリーンボンド原則との整合性に配慮して策定した」として、「本ガイドラインにおいて「べきである」と記載されている事項のすべてに対応した債券は国際的にもグリーンボンドと認められうる」と述べている。
 しかし逆に、グリーンボンド原則と全く同じならば、ガイドラインはいらないのではないか、という意見もあるかもしれない。英語で文章を読むことに不自由がなく、最初からグリーンボンドを発行する気のある人にとっては、おそらくその通りだろう。だが、現実には、グリーンボンド原則があるにも関わらず、日本におけるグリーンボンドの発行は、海外に比べると出遅れている。環境省があえて日本版ガイドラインを出す意図は、①環境省としてグリーンボンドを推進する姿勢を示すこと、②日本語で読めるものを提供すること、③解説や例示を加えることで取り組みやすくすること、の3点ではないだろうか。

<All or Nothingではない>
 では、グリーンボンドガイドラインの要件を満たさないものはすべて「グリーンではない」と決めつけてよいのだろうか。たとえば、東京都が2016年に、グリーンボンド発行に向けたトライアルとして「東京環境サポーター債」を発行したように、グリーンボンドではないとしても、環境改善効果のある事業のために債券を発行するケースはあるだろう。実際、東京都はこれを踏まえて2017年にグリーンボンドの発行を計画している。このように、一足飛びにグリーンボンドとならない場合でも、ステップ・バイ・ステップで知見を蓄積して、将来のグリーンボンドにつなげていく実務上の取組みは極めて貴重である。

 そこでガイドラインは、「本ガイドラインにおいて「べきである」と記載されている事項の全てに対応していない限り、投資の環境改善効果を主張すべきでないといった、All or Nothingの立場には立っていない」として、「調達資金が環境改善効果のある事業に確実に充当されるのであれば、発行体が本ガイドラインを参考にして試行的に債券を発行し、将来の、本ガイドラインに準拠したグリーンボンド発行に向けた知見を蓄積することは、グリーンボンドの普及という本ガイドラインの目的に照らして有効である」と述べている。

<なぜ100ページもあるのか>
 グリーンボンド原則は附属文書(Appendix)も含めて7ページである。ところが環境省のガイドラインは104ページもある。分厚すぎる。こんなに読めない、という意見があっても不思議ではない。しかし、分厚くなっているのは、グリーンボンドの国際的な現状や発行することのメリットといった解説が付されていることと、モデルケースを含めていること、附属資料としてグリーンボンド原則等を掲載しているからで、ガイドラインの本体部分は、第3章の11ページから42ページまでである。

 その部分は、グリーンボンド原則と同様、①調達資金の使途、②プロジェクトの評価及び選定、③調達資金の管理、④レポーティングの4つの柱からなり、期待される事項が「べきである(should)」と示されている。一方、外部機関によるレビューは、グリーンボンド原則と同様、推奨事項であり、それがなくてもグリーンボンドと称することは問題ないとされている。

 それにしても、30ページもあるではないか、と思われるかもしれない。その理由は、「べきである」という項目以外に、解説や例示を掲載しているからである。たとえば資金使途となり得るグリーンプロジェクトの例や、環境改善効果の算定方法の例などがある。これらは、例示であって、それに限定されるものではないので、グリーンボンドの発行方法を細かく縛るものではない。

<信頼性の確保について>
 グリーンボンドの鍵は、信頼性にある。信頼性は、十分な情報の開示を基礎とした発行者と投資家の対話によって醸成されることが望ましい。それを補完するものの1つが外部レビューである。グリーンボンド原則も日本のガイドラインも、外部レビューは「望ましい」が、「べきである」とまでは書いていない。つまり、推奨事項だが、必須ではない。一方、イギリスを拠点とする気候ボンドイニシアティブ(Climate Bond Initiative)では、外部レビューを前提にした基準を策定し、レビューを受けたものを「気候ボンド」として認証している。また、ロンドン証券取引所では通常の債券市場の中にグリーンボンドのセグメントを設け、外部レビューのあることを要件として、そのセグメントに入ることを認めている。

<グリーンボンドへの期待>
 グリーンボンドガイドラインの直接的な目的は、国内の関係者に指針を示すことでグリーンボンドの市場を活性化することがだが、グリーンボンドの発行額が増えることが最終的なゴールではない。最終的なゴールは、もちろん、グリーンボンドの増加を通じてサステナブルな脱炭素社会を作ることである。多くの関係者がこれを1つの機会と捉えて、グリーンプロジェクトの推進へと向かうことを期待したい。

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