GRIスタンダードの背景と概要

ロイドレジスタージャパン株式会社
取締役 冨田 秀実
 
 2016年10月にGRIが、新たにGRI スタンダード(GRI Standards:複数形)を発行し、その日本語版翻訳版が2017年4月に発行された。このスタンダードはこれまでのG4ガイドラインの後継のG5ではなく、新たにスタンダードという形に、格上げされている。基本的な内容については、これまでのG4を踏襲しているが、構造を大きく変更している。


<GRIスタンダードの背景>

 なぜG4から内容を大きく変えずに、ガイドラインからスタンダードに移行する意味があるのだろうか。GRIは2000年に最初のガイドラインを発行して以来、当時、存在していなかったサステナビリティ報告書を普及させ、現在は、90カ国の数千の企業や組織に活用される事実上、デファクトとしての役割を果たしてきた。
 次なる段階は、サステナビリティ報告を、財務報告に続く、企業開示の正当な位置づけを持った開示に位置付けることである。

 実際、欧州では、EU指令が非財務情報(CSR情報)の開示を義務付けるなど、法制化の動きも出てきている。また、法律ではないが、世界の証券取引所ではその上場企業に対し、サステナビリティ情報開示を義務づける動きが進んでいる。実際、企業の真のパフォーマンスを把握するためには、従来の財務報告だけでは不十分であるという考え方が世界的に広まり、同時に、企業が経済的な役割のみを果たす存在という認識から、社会や環境に対する責任も果たすべき存在という理解にパラダイムシフトが起きていることが背景にある。

 こうした、いわば義務としての制度開示の時代にサステナビリティ報告が耐えるためには、財務報告には確固たる開示基準があるように、何らかの確固とした開示基準が必要となる。それを目指したのが、今回のスタンダード化であることが想像出来る。米国では、一歩早く、SASBが米国上場企業に要求される年次報告にサステナビリティ情報を義務付ける動きを仕掛けたが、まだ、義務化されるかどうかについては明確な方向性が見えていない。そこに、今回、満を持してこの分野の事実上のデファクトであるGRI がグローバルな標準となるべく、スタンダードを発行したということができよう。

 GRIのプロセスは、その設立当初からマルチステークホルダープロセスが重視されており、今回もそれに変更はないが、策定プロセスで大きな変化があったのは、そのガバナンスにある。GRIはNPO組織であるが、今回スタンダード化に際し、GRIの組織のガバナンスを行う理事会(ボード)とは完全に独立した、スタンダードを策定するためのボード(GSSB: Global Sustainability Standards Board)を組織し、その議論のプロセスを公開するなど、透明性を確保した策定プロセスを導入した。筆者もGSSBのメンバーとして、スタンダード化に直接関与したが、従来のガイドラインの策定とは一線を画したものとなっていた。このような策定プロセスを導入した理由はいうまでもなく、法制化や取引所の基準として採用されるに十分な客観性と透明性を担保することにある。


<GRIスタンダードの概要>

 G4から内容上の大きな変更はないことは上述したが、大きな変化点としては、次のような要素がある。

●モジュール化構造の導入:
 従来、1冊のガイドラン文書(G4の場合、マニュアルを入れると2冊)の分厚いものであったのが、モジュール構造の導入により、項目ごとに細分化され、報告原則や準拠の要件を記載したGRI101、これまでの一般情報開示項目(組織の状況、ガバナンス、報告書のプロフィールなど)を記載した102、マネジメントアプローチに関する 103、G4の特定開示項目に当たる経済側面の200番台、環境側面の300番台、社会側面の400番台は、課題ごとに201、202など独立した複数のスタンダード(standard)に分離され、構成されていることである。これにより、世の中の情勢変化に、フレキシブルに対応して、必要な部分のスタンダードのみ改定すること、また、新たな項目のスタンダードを追加することが容易になった。
 
出典:GRI Standards 日本語版(GRI 101:基礎 2016)

●報告要求事項の明確化:
 開示項目を扱うスタンダードでは、要求事項(Shall「ねばならない」で記載)、推奨事項(Should「するのが望ましい」で記載)、手引き(ガイダンス):項目などの解説などに明確に分離され、報告者が開示すべき項目が明確化された。

出典:GRI Standards 日本語版(GRI 101:基礎 2016)

 一方、すべての組織がすべてのスタンダードを開示することは求められず、マテリアル(重要)な課題の開示のみで良いとする開示基準、中核と包括という2種類の準拠の条件に関しては、G4変更はない。さらに、多少の統廃合はあるものの、開示項目(従来の指標)などの内容に関しては基本的には大きな変化はなく、新たな項目は原則的に存在しない。

 なお、スタンダード化に伴い、従来のG4ガイドラインは、2018年7月以降、廃止されることになっており、それ以降に発行される報告書は、G4ではなく、新たなスタンダードを用いることが必要となる。


<GRIスタンダード化の影響>

 このGRIのスタンダード化は、世界のサステナビリティ情報開示を、今後より厳格な方向に導くことが想定される。日本では、サステナビリティ情報開示の義務化の動きは顕在化しておらず、これまでG4に対しても、準拠せず、参照程度の軽い活用がほとんどであった。
 ただし、世界でのサステナビリティ報告の義務化やESG投資の活性化にともない、サステナビリティ報告のレベルが向上し、スタンダードへの準拠が増加することが想定される。日本企業にとっても世界で競争してゆくためには、これまでとは違った対応が求められることになろう。

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