企業価値評価での環境報告の活用に向けた環境省の取組

環境省大臣官房環境経済課
課長補佐
菅生 直美

1.はじめに

 環境省では、事業者の皆様による環境に配慮した事業活動とその環境報告を促進するための施策を進めてきており、その取組の1つである環境報告ガイドラインについては、6年ぶりの改定を行ったところです。*1  

 環境報告は、事業者の皆様が必要な説明責任を果たし、ステークホルダーの判断に影響を与える有用な情報を提供するもので、その報告対象は、従業員、サプライヤー、消費者、地域、株主など様々ですが、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)要素を投資判断に組み込む「ESG投資」への関心が2015年を境に高まっていることを受け、企業価値評価に環境報告での情報を活用しようとする投資家が環境報告の重要な報告対象となってきています。

 そのため、環境省でも開示ガイドラインとしての環境報告ガイドラインの提供等に加えて、環境報告を企業価値評価に結びつけて活用していただき、環境の取組と情報開示に優れた企業が投資家から適切に評価される循環を構築できるよう取り組んでいます。


2.環境報告活用のための2つの検討

 ESG投資に関する 基礎的な理解を広めることを目的とした解説書を2017年1月に発行した*2上で、中長期的な時間軸でリターンの獲得を志向し、ESG の各要素を投資判断に織り込むために、環境情報を理解する能力を備えようと考えている機関投資家を念頭に、2019年5月に「環境情報を企業価値評価に活用するための考え方に関する報告書」を公表しました*3

 この中では、ESG 投資における環境情報に関する基本的考え方や環境情報の見方、さらに、ビジネスプロセスの構成要素別のリスクや機会の例示等、環境情報を企業価値評価に役立てるための基本的な考え方の整理を行っています。

 報告書は、環境を含む ESG情報を投資判断に組み込もうとする投資家の皆様がエンゲージメント(建設的な対話)を行う際の参考にしていただくと同時に、持続可能な社会への移行期に、中長期的な時間軸での企業価値向上を志向する事業者の皆様にも参考となることを期待して作成しています。

 さらに、上記の整理も踏まえて、環境関連の重要なリスクと機会を企業価値向上に向けた経営戦略に取り込んでいる企業を投資家が評価するにあたって参考となるよう、「『環境サステナブル企業』についての評価軸と評価の視点」を本年7月に公表しました*4。評価軸と評価の視点では、投資家実務の目線から、気候変動を含む幅広い環境関連リスク・機会を考慮している事業者の取組を評価する視点を提供しています。

 ESG情報を投資判断に統合して行おうとする投資家が、開示された環境情報を見る際のポイントとして参考にしていただくとともに、企業経営の中で環境課題を重要な項目として特定している場合に、どのような取組や情報開示が必要か、中長期的な企業価値評価を行う投資家の視点を情報開示主体の皆様が理解する際にも参考になるものと考えております。


3.おわりに

 環境報告においては、事業活動における直接的・間接的な環境への重大な影響等を環境マネジメントにより適切にコントロールしているかに関して説明することを求められてきましたが、持続可能な社会への移行がどのような道筋で進んでいくのか判然としない現在のような状況下では、より長期的な目線が必要であり、長期的に環境マネジメントを支えるためには、健全なガバナンス体制や全社的なリスク管理体制が必要です。

 そのため、環境報告でも、全社的な仕組みの健全性を推測できるような報告が求められるようになっています。さまざまな開示フレームワークがありますが、持続可能な社会への移行の中で、自社が何を考え、どのように行動するのか、その中で、情報開示というコミュニケーションの手段をどのように活用していくか、投資家向けの環境報告を含めた全社横断の主体的な開示戦略の検討が望まれます。

 環境省では、今後とも、持続可能な社会への移行に向け取組と環境報告を行う事業者の皆様とその情報に基づき、適切に企業評価を行おうとする長期的視点を持った投資家の皆様にとって参考となる情報やツールを提供することで、環境課題の解決に向けた社会の流れを加速させていきたいと考えています。

 その手始めとして、評価軸と評価の視点を参考に、これまで、マルチステークホルダー向けの優れた環境報告を表彰してきた「環境コミュニケーション大賞」に加えて、今年度から、投資家目線での評価を行う新たな表彰制度を実施する予定です。

 皆様からの御応募をお待ちしています。


*1 「環境報告ガイドライン2018年版」 http://www.env.go.jp/policy/2018.html
*2 「ESG検討会報告書」 http://www.env.go.jp/policy/esg/pdf/rep_h2901.pdf
*3 「環境情報を企業価値評価に活用するための考え方に関する報告書」
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/report.pdf
*4 「『環境サステナブル企業』についての評価軸と評価の視点」
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/R1/KankyoSustenable_hyokajiku_shiten.pdf

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