持続可能な消費と生産パターンを共創する

東京大学工学系研究科
教授  平尾 雅彦
 
 2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」で提示された17の持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産(Sustainable Consumption and Production,以下SCP)パターンを確保する」は、他の目標に比べてわかりにくい。SCPパターンとは具体的になにがどういうことなのか、目標12のターゲットを見ても企業活動と関係がありそうなものは、資源管理(12.2)、食品ロス削減(12.3)、化学物質管理(12.4)、廃棄物削減(12.5)、持続可能な取り組みと報告(12.6)などであって、企業活動全般に落とし込みにくい。では、多くの企業が取り組んでいる省エネルギー製品の開発・生産は目標13に(気候変動への緊急対策)に貢献しても、目標12には貢献しないのであろうか。また、持続可能な公共調達(12.7)は公共セクターだけの取り組みだろうか。

 2030 アジェンダの第9節にはわれわれが目指すべき世界像として、「すべての国が持続的で、包摂的で、持続可能な経済成長と 働きがいのある人間らしい仕事を享受できる世界」が挙げられており、そのような経済社会を実現するための中心にSCPが置かれていると考えるべきであろう。

 図1には、これまでの消費と生産パターン(左)から目指すべきSCPパターン(右)への変革を表している。消費と生産は相互に影響し合っており、これまでは経済的な発展と所有と消費による満足を求めて、大量生産・大量消費パターンが定着し、それにともなって環境や資源消費が増大してきた。この帰結として、地域に甚大な被害をもたらす公害から地球全体の温暖化までを引き起こした。右側に示したSCPパターンでは、物質的な消費と生産によらずに人々の充足感が増大し、その充足感と環境負荷はデカップリングされ(切り離され)、消費と生産による環境への副作用は地球1つ分におさめることができる。



1 持続可能な消費と生産パターンによって消費と生産の環境負荷・資源消費増大スパイラルを
Planetary Boundaries(地球1つ分)の活動に変えていく


 このような持続可能な経済社会における消費と生産の相互関係は、図2のように消費と生産のつながりとして書き直してみることができる。生産からの適切な製品情報の提供と、それに呼応する消費のグリーン購入が典型であるが、近年のデジタル技術の発達によって、製品そのものではなく製品の持つ機能を提供するレンタル・リースのようなサービス化やシェアリング、消費どうしの不要品売買という新たなSCPパターンが産み出されている。



2 消費と生産をむすぶ循環の輪のなかでつながりをつくることが
持続可能な消費と生産パターンとなる


 さらに、この消費と生産をつなぐ取り組みは、図3に示すようにSDGsの多くの目標達成につながることに気付く。フェアトレードのようなエシカル調達は、資源まで遡ってそこに関わる人々や国の貧困・不平等をなくす目標1,10の達成に貢献する。海のエコラベル(MSC)や森のエコラベル(FSC)、パーム油のエコラベル(RSPO)などのラベルを知り、調達に活かすことで目標14,15の達成に貢献する。事業活動での使用電力の100%再生可能エネルギー転換を目指すRE100やその中小企業版ともいわれるRE Actionに参加し、電力調達を切り替えることは、自社が電力生産者とつながって目標7,13の達成に貢献する。省エネ製品を開発・生産し、エコマークや省エネマークを表示して、その情報に基づいて消費に購入・利用してもらえば、消費との連携で目標13に貢献する。これらの取り組みを推進する企業では、目標8の公平・公正な雇用や目標9の技術革新もすすんでいると考えられる。逆に見れば、2030 アジェンダの達成を総合的な視点で指向した企業活動が、SCPパターンを生み出し、確保していくことに他ならない。



3 SDGs指向の企業活動が持続可能な消費と生産パターンを産み出す

 SCPを企業活動に落とし込むための大事なポイントは2つある。

 第1は、ライフサイクル思考である。国連グローバル・コンパクトなどが取り纏めたSDG Compassにも示されていることであるが、ライフサイクル思考は製品・サービスのバリューチェーン全体とそこに関わる人や組織、地域、国との関係を把握し、SDGsをヒントにより持続性が高い仕組みや商流を作り上げる発想である。バリューチェーンは、消費と生産の連鎖と見なすことができるので、自ずからSCPパターンの実践になる。

 第2は、共創である。SDGsの紹介でしばしば使われる17のアイコンの12番目は日本語で「つくる責任、つかう責任」となっているので、つくる側とつかう側それぞれに責任を果たせばよいように思われるかも知れない。しかし、これまで述べたように「消費と生産」は不可分であり、企業も消費するし、消費者も循環の輪の中では生産になりうる。SCPパターンは相互の連携によってのみ確立できるのである。また、行政やNGO/NPO、学術、教育などバリューチェーンに直接現れにくい関係者もSCPパターンを創り上げる重要な役割を担っている。SDGs目標12「SCPパターンの確保」には消費・生産に加えて、すべての関係者の共創が不可欠であろう。

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