COP26の結果概要~今後の脱炭素化に向けて~


地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動とエネルギー領域  
副ディレクター 高橋 健太郎


 11月13日 イギリス・グラスゴーにて、第26回 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP26)は予定よりも1日延期し、グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)を採択した。本合意では、数多くの決定が含まれたが、決定されたポイントをまとめると3点ある。

1点目は1.5度目標への追及に軸足が移ったことである。2015年に採択されたパリ協定では、「地球の気温上昇を工業化前に比べ2℃よりも十分低く抑え、更には1.5℃未満に抑えるための努力を追求する」と記述されている。グラスゴー気候合意では、1.5 度目標達成に向けた決意を示すとともに、現在の各国の削減目標レベルに関して、不十分さを認め、2022年末までに再度2030年の目標の見直しが要請されることになった。

11月上旬にUNFCCC事務局が発表したNDC(自国が決定する貢献:Nationally Determined Contribution)統合報告書の更新版によれば、現在、各国から提出されたNDCを考慮しても、2030年の温室効果ガス排出量は2010年比で13.7%増加することになっている。つまり、更なる強化された削減目標が必要となる。

なお、2030年以前の野心に関して、年次ハイレベル閣僚ラウンドテーブルが2022年より開催されることになる。なお、インドは11月1-2日に開催された世界リーダーズサミットで、2070年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を発表し、G20諸国では、メキシコ以外すべての国がネットゼロを発表している。


 2点目のポイントは、初めて石炭について言及されたことである。議長国であるイギリスは、2020年より石炭火力発電の段階的廃止の加速を呼びかけていた。今回のCOP26決定では、「対策が講じられていない石炭火力発電の段階的削減」について、各国に政策を加速させることが要請された。

インドが閉会式の土壇場で、「段階的廃止」との表現から「段階的削減」に修正提案を行い、島嶼国が懸念を強く示したことは記憶に新しい。一方で、表現がやや弱くなったものの、石炭火力発電を減らすことには変わりがなく、今後、段階的削減や廃止の具体的な時期を議論する方向になるであろう。既にG7諸国の中では、国内の石炭火力発電の段階的な廃止時期を発表している国も存在する。

また、COP26会期中、石炭火力のみならず、天然ガスや石油などの化石燃料の使用削減を推進するためのアライアンスも発表されている。コスタリカ・デンマークが主導し、天然ガスや石油生産の段階的廃止を目指すBeyond Oil and Gas Allianceである。

今回のCOP26は、非政府主体の参加も多く、国際交渉外で、数多くの取り組みやイニシアティブが立ち上がり、脱炭素化に向けた準備を進めている。交渉外のイニシアティブはさらに活発化していくことが見込まれ、それらの取り組みが、今後のCOP決定や各国の削減対策の相場観を形成することになるであろう。  


 3点目のポイントは、国際炭素クレジットの取引に関するルールが決定したことである。国際交渉において、パリ協定第6条※1の下で取引に関するルールの取り決めについて議論が行われてきた。本来であれば、2018年に議論が終了するはずであったが、各国でルール作りに関する意見の相違があり、これまで合意ができなかった。

今回、パリ協定第6条の下で、排出削減目標を持つ国がその達成にクレジットを活用するためのガイダンス(6条2項)と国連の下で新たにはじまるクレジット制度(6条4項)のルールが採択された。京都議定書の時には、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism)と呼ばれるクレジット制度があり、7,000件以上の温室効果ガス排出量を削減するプロジェクトが開発され、多くの日本企業が参加した。

京都議定書第2約束期間の発効の遅れに加え、クレジットの需要が低迷したことで、2013年以降、その取引量は非常に限定的であった。しかし、2020年10月末以降、菅前総理が2050年カーボンニュートラルを発表したことで、日本企業では、クレジットの活用を期待する声が大きくなっている。

しかし、クレジットの活用に関して、国際的には意見が2つ分かれている。カーボンニュートラルを目指すにあたり、クレジットを活用して自社の排出量をオフセットすることに対して懸念を示す声と、クレジットの活用拡大を目指す声である。

特にCOP26会場では、上述したように石炭火力や化石燃料の使用の継続に対して懸念が大きくなっていることから、クレジットの活用が温室効果ガス排出量のフリーパスになるのではという意見がある。

一方で、クレジットを生み出し、温室効果ガス排出量の削減に寄与するプロジェクトの実施は、省エネの推進や再生可能エネルギーの普及により排出係数の低減、そして、NDCでは対象となっていないセクターの削減を促す。

このように意見が分かれていることを踏まえると、クレジットを使う需要側が、カーボンニュートラルを目指すにあたり、その活用方法について留意することが必要と思われる。英国政府が支援している自主的炭素市場十全性イニシアティブでは、需要側となる企業がクレジットを活用する際に、将来の温室効果ガス削減目標にどの程度活用されるのか、また、どのようなクレジットを活用するのかといった基準作成を検討している。

今後、消費者や投資家に対し、間違った解釈を提供しないよう、カーボンニュートラルを目指すクレジットの需要家は丁寧な説明が求められることになるであろう。


 今回のCOP26では、インドの土壇場の修正提案が行われるなど、完璧なテキストに合意することができなかった。これは国連交渉における全会一致の難しさであるが、パリ協定の気温目標に基づき、温室効果ガス排出削減を目指すことは、国や非政府主体で共通の理解がある。

今後、排出削減を加速できる国と、そうでない国との間で、排出削減目標達成の進捗について差が開く可能性がある。COP26会期中、南アフリカにおける公正なエネルギー転換を促進するために、英国、米国、フランス、ドイツ、EUによる支援が政治宣言として発表されたが、この宣言のように公正な移行を必要とする国と協力しつつ、世界全体が協力し排出削減を促進していくことが必要であろう。


COP26について、さらに詳しくお知りになりたい方は、「IGES UNFCCC COP26 特集」に情報がまとまっておりますので、ご参照ください。


※注釈
1: パリ協定第6条については、地球環境戦略研究機関(IGES)の「COP26直前 パリ協定第6条基礎講座」、「パリ協定第6条特集ページ」、「パリ協定第6条の交渉結果と今後の炭素市場の展望」のサイトをご覧ください。

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