サーキュラー・エコノミーへの取組の現状と今後の課題


グリーン購入ネットワーク 会長
東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター
教授 梅田 靖

 ここ1年ほどの間に、サーキュラー・エコノミー(CE)に対する日本企業の注目度が急速に上がった。CEは2015年にEUが政策パッケージとして発表する前後から広まった考え方であり、図1に示すバタフライ・ダイアグラムが有名である。すなわち、製品を作って使って捨てるリニア・エコノミーから、長寿命化、リユース、リマニュファクチャリング、リサイクルなどを複合的に組み合わせて資源を循環させるサーキュラー・エコノミーに転換しなければならないという考え方である。


出典:平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書, 2016   
 図1:バタフライ・ダイアグラム

  EUの政策は、これが、欧州の雇用の確保と産業競争力の向上につながるという主張である。環境政策であると同時に産業政策であるところが、我が国の3R、循環型社会政策と異なる点である。筆者は、CEは、資源枯渇問題などを発端として、結局のところ、資源が循環することが前提となる社会、経済的に成立する社会を構築することが目標であると捉えている。その意味でも、CEには2つの柱があると考えている。

 1つは、廃棄物対策、フード・ウェイスト、海洋プラスチックに代表されるように、リサイクルを社会に定着させようという流れである。もう1つは、サービス化やシェアリング・エコノミーとも関連する、脱大量生産・大量販売の流れである。我が国の循環型社会のように、従来の資本主義経済の下で何とか循環を成立させようとしても、リサイクルはコストになり、苦しくなる。

 CEは環境問題の枠内の留まらず、循環が経済的に成立するように、経済の仕組み自体を変える、市場競争の座標軸を変え、ものづくりや価値提供のやり方を変えることを狙っているのではないかと見ている。そしてこれを可能にする重要な基礎技術がデジタル技術である。EUはデジタルとグリーンの相乗効果を本気で狙ってきている。ただし、流行りのシェアリングやサブスクは全部が全部、環境面で効果があるわけではないことに注意が必要である。

 この二つの柱が様々に組み合わされてEUの政策として展開されつつあり、典型的には製品設計への規制、例えば2022年3月に発表されたエコデザイン規則案がある。強烈なのは電池規則案であり、これはPC用であろうと、EV用であろうと対象となり、カーボンフットプリントの記載、リサイクル率の規制に加えて、リサイクル材の含有義務、すなわち、新製品にリサイクル材を一定割合以上使用しなければいけないことが規定されている。さらには、デジタル製品パスポートである。製品の材料、紛争鉱物の不使用の証拠、リサイクルや解体の方法など情報をデジタルで記録し、ネットワークから容易に閲覧可能にするものである。上記のエコデザイン規則案でも継承されている。バッテリーのリユースやリパーパスには使用履歴の情報が極めて重要であるので、将来的には使用履歴情報も載ってくるかもしれない。

 我が国の循環型社会は、埋立処分場の枯渇問題から出発したので、廃棄物対策が基本であり、リサイクルをコスト要因であり、廃棄物処理の代替として捉える傾向が強かった。結果として、大量生産・大量リサイクル型社会に到達した。CEは、長寿命化やメンテナンス、再生可能資源への代替、リデュースなどを重視している(これらは我が国の3Rでもキャッチフレーズとしては叫ばれていたが)。CEは、Circularという単語は使われているが、循環型社会と異なり、廃棄物代替手段としてのリサイクルはさほど重視されていない。むしろ、CEの発祥のNGOなどが循環にこだわりすぎで、他の代替手段を否定しすぎではないかという議論も聞かれるようになってきた。本質は、資源やエネルギーの消費を地球の有限性の範囲内に留める、すなわち、地球の有限性と豊かさや企業競争力のデカップリングである。これ自体はカーボンニュートラルや自然資本・生物多様性の議論も根は同じであり、この大きな流れは変わらないと考えている。その物質や資源の面に注目するとそれがCEであり、その実現手段の一つにリサイクルがある。逆に言えば、リサイクルをしたからCEということにはならない。2020年に発表されたCE新アクションプランでも先に述べた2つの柱のうちの後者、市場競争の座標軸を変える試みが、より強まっていると感じている。そのための競争条件の整備をEUは法規制によって、エコデザイン規則案やデジタル製品パスポートで進めていると見るべきであろう。

 我々は、図2に示すVision-Meso-Seedsモデルで物事を整理することを提案している。リサイクル技術、エネルギー技術など技術開発に注力する人はある技術が世の中に普及すれば、例えばサステナビリティ問題が解決するようなことを言うが、必ずしもそうではない。まずその技術が製品に利用されるか、それが社会に普及するか、普及したときにリバウンド効果がでないか、社会の中で複雑な反応が出ると見るべきである。それがVisionとSeedsの間に挟まっているMesoレベルという訳である。

 日本人は技術が好きで、こういうリサイクル技術ができたなどとSeedsレベルに注目しがちであるが、CEはMesoレベルの問題であり、資源循環が当たり前に経済的に成立する社会はどのような姿なのか、そこに今からどのように到達すれば良いかという問題である。このMesoレベルとSeedsレベルの違いによって、欧州人と日本人とで話が噛み合わない現場をたびたび見てきた。このMesoレベルのデザインがCEに向けて最重要の課題と考えており、その方法論として筆者らは、ライフサイクル設計、製品・サービスシステム、循環プロバイダー、そしてデジタル・トリプレットの研究をしているがその話はまたの機会に。


※筆者作成     
 図2:Vision-Meso-Seedsモデル

 最後に、日本企業のCEへの対応について述べておく。日本では恐らくEUのようにCEについて厳しい法規制ができるとは思えない。だからといって日本企業が対応しなくて良いかというとそれは全く違う。企業の価値は、その企業が提供する製品価値と企業そのもの値段である企業価値から構成されている。近年、企業価値の重要性がとみに高まっている。端的に言えばESG投資であり、そのための格付け、タクソノミー規則、J-SUSの審査機関等が検証しているサステナビリティ報告書など、この分野が急成長しており、なおかつこのサステナビリティに向けた企業価値の分野はユニバーサルであるので、国内でのみビジネスしている企業であろうと逃れられない。逃れられる逃れられないという議論ではなく、CEをビジネスチャンスとして捉え新たな展開を指向するべきなのである。


▲ページのTOPへ △コラム一覧表へ △J-SUSトップページへ
 Copyright 2022 サステナビリティ情報審査協会 All right reserved.